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新たな藻類バイオマーカー古環境指標:長鎖アルキルジオール

 
堆積物中のバイオマーカーを用いた古水温指標として、ハプト藻イソクリシス目に特有の長鎖アルケノンの不飽和比(UK’37)や、古細菌(アーキア)の膜脂質成分を利用したエーテル脂質指標(TEX86)などが一般に知られている。しかし、これらの指標では起源となる生物の生態により保存している記録の季節性や深度に偏りがあることが指摘されている。一方で近年、培養試料や堆積物の分析から、一部の長鎖アルキルジオールやそれに似た構造を持つ脂質で、その炭素数分布やその異性体の量比が水温に応じて変化する可能性が指摘され、新たな古水温指標としての利用が期待されている。ただし、海洋堆積物中の長鎖ジオールや、ヒドロキシ基を持つケトン・エステル・脂肪酸は、第四紀の堆積物中に広く分布することが知られているが、その生物的起源はまだ明らかになっていないものも多い。今回は、これらの化合物が各種指標として提案されるに至るまでの経緯と、それらの生物的起源に関する研究を紹介する。


図C1 古水温計:真正眼点藻(Eustigmatophyta)と珪藻Proboscia(小林まどか作画).